2023年最新賃金状況に基づく特定技能外国人材の賃金の決め方をご提案!テンプレート付きであり!
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特定技能1号の在留期間は通算で5年が上限となっているので、特定技能外国人の賃金を設定する際に困ったことがあるのではないでしょうか。 本記事では、特定技能外国人の賃金設定の課題を解決するために日本人はもちろん、特定技能外国人にも適した給与体系とその導入の流れや方法についてご紹介していきます。
一般的な賃金の決め方
実際に従業員の賃金はどのように設定するのでしょうか。まず、最低賃金法を遵守することが大前提となり、国と自社所在地域の最低時給を収集し、そして業界の平均賃金水準と競合他社の賃金状況を調べ、最後会社の経営状況に合わせて給与を設定することが一般的です。
しかし、こういうプロセスで設定された賃金は本当に会社に適しているのでしょうか。従業員の納得は得られる制度になっているでしょうか。これからおすすめの賃金の決め方をご紹介します。
【豆知識:賃金の定義】
労働基準法に定められた賃金とは賃金、給料、手当、賞与、その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものをいいます。
すなわち、
(1)「事業主が労働者に支払ったもの」であること
(2)「労働の対償として支払われたもの」であること
の二つの要件を備えているものをいいます。
日本の賃金制度は、企業によって異なる部分もありますが、今の主流は以下のような形態があります。
年功主義制:勤続年数に応じて、昇給・昇進する制度です。
能力主義制:人材の能力や技術、スキルを評価して、給与を決定する制度です。
成果主義制:社員が達成した成果に応じて、報酬を支払う制度です。
どのようなタイプの賃金制度にかかわらず、以下の7つの要素は企業が賃金を決定する際の共通要素として考慮されます。
①年齢:自然年齢・学卒基準年齢。
②勤続年数:入社してからの年数。
③生計費:必要とされる生活費(標準生計費)。
④扶養家族数:扶養している配偶者・子ども・親。
⑤能力:本人が獲得した能力。保有能力・顕在能力。
⑥職務:担当している仕事の難易度・大変さ。役職・危険度・負荷量の多さ等々。
⑦成果・業績:担当している仕事の成果。売上・利益・生産性・生産量・処理量等々。
厚生労働省が公表する令和4年就労条件総合調査の概況によると、実際には日本の企業が社員の賃金を決める際の決定要素について、
管理職、管理職以外ともに、「職務・職種など仕事の内容」 が最も高く(管理職 79.3%、管理職以外 76.4%)、次いで第2位「職務遂行能力」(管理職 66.6%、管理職以外) 66.3%、年齢・ 勤続年数は第3位(管理職 57.8%、管理職以外65.5%)、業績・成果は第4位(管理職 45.4%、管理職以外 44.4%)、 学歴は最終順位(管理職 16.5%、管理職以外 20.5 %)となっています。
特定技能外国人の賃金決定特有の問題
「特定技能」は2019年4月、日本が人材の確保が困難な一部の産業分野等における人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を労働者として受け入れる新たな在留資格であり、特定技能1号と特定技能2号二つの種類があります。特定技能は受入れ機関(又は登録支援機関)による一連のサポートが義務付けられていること、そのうち特定技能1号は在留期間が通算で上限5年までであることという特徴があります。
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また、日本の労働基準法第三条は労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならないことと規定されています。労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等については、外国人についても日本人と同様に適用されます。
さらに、出入国管理及び難民認定法に基づく特定技能雇用契約の内容の基準の中で下記の規定もあります。
「外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること。」
「外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをしていないこと。」
要約すると、特定技能外国人が日本人と同じ賃金水準で採用することが求められています。
このため、実際的には特定技能外国人材を採用するコスト、すなわち人件費が高くなることが考えられます。
具体的には下記のようなことがあります。
➀管理費用が発生するため、人件費が上昇すること
特定技能採用をする際に、登録支援業務は必要なので、その支援業務を自社で行う場合、登録支援機関に委託する場合でも、日本人の採用よりも人件費が高くなることがあります。また一般的にビザや在留申請費用も企業側が負担しており、これもコストとなります。
➁賃金・昇給制度の不満により、転職や離職が発生すること
コストをかけて特定技能人材を採用したが、職場によい賃金・昇給制度が整っていない場合、外国人にとって不満に繋がり、より良い賃金などを求めるため離職するリスクが高くなります。十分な制度がないことにより、結果として企業にとって再度採用するコストがかかってしまうことに繋がります。
特定技能外国人に対応する賃金制度
これらの問題を解決するためには、日本人従業員はもちろん、特定技能外国人の賃金が公正かつ適正に設定されるよう、資格等級基準を活用した賃金制度をお勧めします。
まず等級制度を理解しましょう。
「等級制度」は大きく「能力」「職務」「役割」の3つの軸が存在しており、その軸により「職能等級制度」、「職務等級制度」と「役割等級制度」この3つに分類されることが一般的です。それぞれの特徴とメリットなどは下記の表をご参考ください。
種類 | 職能等級制度 | 職務等級制度 | 役割等級制度 |
---|---|---|---|
評価基準 | 能力 | 職務 | 役割 |
特徴 | 働く人が保有している 職務遂行能力のグレード に応じて給与を決定する仕組み。 |
担当する職務の価値 (責任度合い、貢献度、難易度等) のグレードに応じて、 給与を決定する仕組み。 |
働く人の役割 獲得・役割創造 のグレードに応じて、 給与を決定する仕組み。 |
各会社業界や会社の等級制度は、一律に1社1基軸というわけではなく、会社は自社の人材育成プラン、事業計画や従業員に求められることを考慮した上で、職種ごとや役割ごと複数の基軸により設定し、社員1人に複数の等級を併用することもあります。これらを単独または組み合わせで導入することは、従業員の国籍にかかわらず、客観的合理的に従業員が保有する能力・職務・役割などを等級に区分し、各等級の範囲内で評価に応じて該当従業員の賃金増減、昇格昇給などを行えます。
等級制度は、従業員のモチベーションの向上や人材育成の方向と評価の明確化、組織内の序列化や公正性を実現するために役立ちます。等級制度が完全に公正であるとは限らず、評価基準の設定や評価方法の策定には注意が必要です。
下記は等級制度を活用した簡単な介護賃金テーブルを作成しました。
職位名 | 等級 | 期待される役割責任 | 必要な資格 | 賃金水準 |
---|---|---|---|---|
施設長 | L9 | 施設所の業務運営での管理責任。 対外的な運営面での苦情や事故の処理対応管理など |
介護福祉士、介護支援専門員など | 355,010~ |
所長 | L8 | 事業所の業務運営での管理責任。 ケアスタッフの教育・指導専門職として、 ケアのスーパーバイズによるスキル指 導やOJT、研修講師、カウンセリング等を行う |
介護福祉士、介護支援専門員など | 325,000~ |
主任 | L7 | 所長を補佐し、日常的サービスの実施計画を推進するための業務計画、 分担及び進捗管理を行う。提供表の管理、利用者の把握・管理、スタッフ の管理(シフトの作成、勤怠管理)職員の状況を把握分析し、 適切な人材育成を推進する |
介護福祉士、 介護支援専門員、 訪問介護員1級 |
300,180~ |
上級介護職員 | L6 | 幅広い実務知識と経験を有し、 難易度が極めて高いケースにも的確に対応する。 |
介護福祉士 介護支援専門員 訪問介護員1級 外国人の場合日本語N1 |
289,970~ |
L5 | 幅広い実務知識と経験を有し、 難易度が極めて高いケースにも的確に対応する。 他者の模範となり、新人や後輩を指導する緊急時の対応を適切に行う |
介護福祉士 介護支援専門員 訪問介護員1級 外国人の場合日本語N1 |
263,450~ | |
中級介護職員 | L4 | 基礎的な実務知識、技能を個別ケースに応用し、 状況に即して的確な介護サービスを自立的に実施する |
介護福祉士 介護支援専門員 外国人の場合日本語N2 |
235,230~ |
L3 | 基礎的な実務知識、技能を個別ケースに応用し、 状況に即して的確な介護サービスを自立的に実施する。 |
介護職員初任者研修 実務者研修など 外国人の場合日本語N2 |
212,330~ | |
初級介護職員 | L2 | 基礎的な実務知識、技能を有し、 基本的な介護サービスを決められた手順で良好実施する |
介護職員初任者研修 実務者研修など 外国人の場合日本語N3 |
191,340~ |
L1 | 基礎的な実務知識、技能を有し、 基本的な介護サービスを決められた手順で実施する |
問わず | 175,000~ |
例えば、ある介護施設の全ての従業員を初級介護員から施設長まで,L1からL9のグレードに分けて想定しています。各グレードに期待される役割責任を明確化します。初、中、上三つのレベルの介護職員の中でさらに各2級に分けられます。 例えば、今のグレードに期待される役割責任をうまく実践でき、より高いグレードの仕事や役割責任もできる姿になれると昇格することになります。
【賃金目安参考】:
令和4年賃金構造基本統計調査
令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要
技能実習制度及び特定技能制度の現状について
等級制度の内容の詳細は、自社の状況に応じて柔軟に調整することができます。自社がどのような基準に基づいて行いたいか、従業員に求める要件とその基準が適切であるかどうか、そして基準と報酬構造が適切にマッチしているかどうかを確認する必要もあります。また、従業員が納得しやすいように、適切な目標設定や透明性・公正性の確保などを行うことが重要です。
賃金制度作成のプロセス
実際に賃金制度を導入する際の具体的な流れは、①〜③のステップで行うことをおすすめします。
➀該当業界賃金情報の調査を実施
賃金規定を作成するためには、現状の賃金水準を把握するための社内と社外の調査が必要です。社外における地域最低賃金基準、業界平均賃金状況、社内における職務や経験年数、業績に応じた賃金水準を調査し、データを集めます。
➁評価基軸となる要素を選定
賃金規定には、基軸となる要素が必要です。例えば、経験年数や職務内容、業績、必要な資格などが挙げられます。これらの要素を選定し、賃金規定の基準となるものを決定します。
➂社労士との連携して賃金規定を作成
収集されたデータにより、法令遵守や労務管理に関する専門的知識を持っている社労士と連携して、従業員が納得しやすいような、わかりやすく適切な賃金制度を作成します。
まとめ
以上が特定技能外国人賃金の決め方と導入のプロセスです。
合理性が高いかつ公正な賃金制度は、従業員のモチベーション向上と人員定着、会社の人件費を削減することにつながり、また言語や文化の違いがあるため、特定技能外国人に自社の賃金制度を事前に説明し、十分に理解してもらうことも重要です。
参考資料:
「賃金賞与制度の教科書」: 高原 暢恭, 労務行政, 東京, 2014年
賃金とは
労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
令和4年就労条件総合調査の概況
第6章 賃金
等級制度(資格制度)を考える ―人事処遇制度の基軸をどう設定するか―
介護施設における人事制度導入に関する研究
-キャリアパスおよび介護プロフェッショナルキャリア段位の導入-
介護サービス提供事業所給与規程参考例
介護事業所における賃金制度等実態調査結果報告書
介護事業所におけるモデル賃金体系に関する調査研究報告書