特定技能外国人材離職の理由とは?早期離職防止ための人員定着対策を説明!
- 人事・労務
- 特定技能
4月10日、外国人の日本での労働のあり方を検討する政府の有識者会議より、技能実習制度を廃止し、特定技能に一本化する提言の試案がまとめられたとの報道がありました。これは外国人受け入れ制度の目的が転換されることを意味します。
【関連情報】技能実習制度の廃止と新制度の創設を求める中間報告書
バブル崩壊の最終期である1993年に、開発途上国への技術移転という国際貢献を目的とした技能実習が導入されてから30年が経過しました。この期間は「失われた30年」と言われることがあります。2019年より、特定12業種における人材不足を解決するため特定技能が導入され、在留受入が加速しました。
現在、特定技能にたどり着くには、技能実習から特定技能へ乗換えるルートと、入国当初から特定技能として来日する2つのルートが存在しますが、今後は人材不足に対応することが主目的とするルートのみとなる見込みであるため、外国人を積極的に受け入れる企業・団体にはチャンスとも言える転換点となる可能性があります。
この記事では、その基盤となる特定技能外国人の定着について考えていきたいと思います。
一般的な人材定着ための施策
まず、ある職種に人材を採用するとして、国籍を考慮しない場合、どうすれば定着するかを考えてみます。一般的には人材定着ための施策は次の5点が挙げられます。
人事制度の整備
人材を受け入れるうえで根幹となるものです。
適正な労働条件の適用
人事制度を基に、法の順守の観点から適正な労働条件の適用することは必須です。
コミュニケーションの文化
いわゆる風通しが良く、言いたいことが言いやすい環境では、社員のパフォーマンスは上がりやすい傾向があります。
キャリアアップの支援
より良いコミュニケーション環境のもと、中長期でキャリアアップを支援するシステムやキャリアパスがあると、社員は将来をイメージすることができるため定着につながりやすくなります。
社員の声を採り入れるシステムがある
サーベイやアンケートといった社員の声を採り入れるシステムがあり、定期的に社内環境がレビューされ改善を図る意欲のある会社では社員満足度が向上し定着につながる要因になります。
特定技能外国人離職の可能の理由
実際に人材紹介業務を進んでいる時、求職者や企業さんにヒアリングして、特定技能外国人が離職するに影響を与えるであろう理由について、次の通り考えています。
現職の給与や福利厚生に不満がある
特定技能ビザは同じ業種での転職は相対的に自由となり、もし他の業種に転職したい場合に、該当業種の特定技能試験に合格しましたら就職できますので、また特定技能人材に対応する賃金制度や人事評価制度が不備な企業が多いため、特定技能人材に対応する昇格昇給もきちんと実施しませんが、もし他の企業が高い給与を提示した場合、競争力のある待遇を受けられるために転職を検討する特定技能外国人人材が多い傾向となります。
日本語能力の不足に伴いコミュニケーションの円滑化が図りにくくなる
特定技能の申請条件には、日本語能力試験(JLPT) N4以上の日本語能力が必要とされています。N4の定義は次の通りとなりますが、日常生活では十分と言えるかも知れません
【読む】基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。
【書く】日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。
日本人が海外で仕事をすることを想像すれば答えは明らかです。実務上では、より細かい表現が求められる場面があります。さらには、日本人同志の日本語会話では、互いに曖昧な表現を読み取る習慣がありますが、海外の言語ではそういったことは稀です。
そこに互いがギャップを感じることになり、特に、その仕事に関わる目的・理由・背景や期日などの結論を明確に伝えない場合は、外国人から見ると「分かりにくい」と思われる場面が発生し、受入側が期待する結果につながらないことがあるかも知れません。
受入側が「言ったじゃないか?」と思っても、外国人側はそうは思っていないわけです。外国人の日本語能力が不十分であり、かつ、受入側のサポートが不十分である場合は、互いにストレスを感じ、特に外国人側がより重いストレスを抱えることになります。
しっかりサポートをもらえない
特定技能外国人を採用する企業は自社または登録支援機関に依頼し、採用された特定技能外国人人材の事前ガイダンスや生活オリエンテーションで詳しく説明し、定期面談を行うことで、特定技能外国人がスムーズに職場生活を送れるようサポートする必要がある。しかしこれら一連のサポートをもらわない外国人人材もいますので、異文化コミュニケーションの環境でとても不安で会社に対する信頼感も薄くなって結局転職や離職した外国人も多いです。
企業に対して特定技能人材を採用した後、自社または登録支援機関に依頼し、入社前や入社後のサポートを行わなければならないので、人材紹介料や登録支援機関依頼料を加えてさらにコストが必要となります。もし特定技能外国人が入社後すぐに転職や離職しましたら会社にとても損です。
特定技能外国人に対応する定着方法
特定技能外国人人材の定着方法は次の通り5点挙げてみます。
言語(日本語)習得のサポート
日常会話レベルを習得した段階で受け入れた場合は、業務で使えるレベルへ向上させるサポートが必要となります。手段は、オンライン・対面とありますが、とにかく定期的に継続して学べるシステムが整った外部へ委託することがポイントです。
また、入国前に本国機関と連携を取り、日本語教育を進めておくことができればより効果的となります。
技術・知識・スキル習得のサポート
本国と共通ではない、日本あるいは受入企業で固有に求められる技術・知識・スキル習得のためには、社内外のトレーニングによりサポートする必要があります。
OJTでのサポート
日本語を習得してもらい、かつ、技術・知識・スキル習得のトレーニングを提供しながら、業務で活かせるようになるためには、日常業務でメンターをつけサポートを図る必要があります。メンターは、いわゆる面倒見の良い、自己犠牲を厭わない特性のある方であれば、精神的サポートにもつながり効果的です。日本語で伝えるコツを押さえたうえで臨むと良いでしょう。
適正な労働条件の適用
労働時間・休日・休暇を始め労働基準法など法規に沿った就業規則の設定および運用を行うことは最低限必要となります。特定技能外国人も最低賃金や同一労働・同一賃金に適用しますので、日本人と同じ賃金水準や福利厚生で採用することが求められています。
公正な評価・報酬の適用
日本人と同じ評価基準に基づき報酬を行うことが望ましいですが、どうしても同じ基準を適用できない場合は、少なくとも外国人から理解を得られるような公正で明確な評価基準および報酬体系が必要となります。
そこで、何をベースに基準を設定するかが重要になります。基準として考えられるのは職務、職能、役割ですが、すでに職務内容や特性、要件などが定義された職務等級制度が導入されているなら、そのまま適用するのが良いでしょう。海外では職務給が一般的であり外国人から理解を得られやすいためです。
もし、導入された基準が無い場合なら迷わず職務等級制度一択となります。
その他、職務能力を定義する職能等級制度、役割を定義する役割等級制度が考えられますが、敢えて差をつけることなく、すでに導入されているものを適用する方が日本人との差を感じることがないためベターだと思います。
【参考記事】特定技能外国人人材の人事評価に対する課題とは?外国人も公正公平に評価できる人事評価制度ををご紹介!
特定技能人材定着実施のプロセス
➀人事制度、育成システム、評価基準および報酬体系の整備
優先的に整備すべきは、人事制度、育成システム、評価基準および報酬体系です。新たに整備する際に社内に対応できる人材がいる場合は、その後の運用も含め社内で対応できると思いますが、そういった人材がいない場合は、人事制度に関しては社労士と、育成システムや評価基準・報酬体系の構築については、人事コンサルに相談するのが良いでしょう。
➁特定技能外国人支援計画の基準によりサポートをしっかり実施
特定技能外国人が入国する前に、日本の生活や労働環境について詳しく説明することで、入社後も引き続き指導・教育を充実し、特定技能外国人が業務に適切に対応できるよう、職場環境や業務内容に関する指導・教育を実施し、そして特定技能外国人と定期面談を行い、生活や業務に問題がないかどうかを確認することもおすすめです。
➂入社後キャリアプラン策定の支援
特定技能外国人の人員定着を促すためには、キャリアプラン指導が重要です。例えば現在のスキルや経験、興味・関心をヒアリングし、短期的・中期的・長期的なキャリアプランを策定し、また、必要なスキルや知識、経験を習得するための勉強方法や訓練機関、資格取得の方法などについても指導します。キャリアプラン指導により、特定技能外国人は自己成長を促し、モチベーションを高めることができます。
これらの取り組みにより、特定技能外国人が定着し、長期的な雇用関係、信頼関係を築くことができます。
まとめ
現在、コロナ禍以降の金融緩和の後、インフレが進行し、いずれ景気後退を迎える段階にあります。
しかし、暗い話ばかりではありません。
特定技能制度現行法では、外国人が入国後同一区分内でしか転職できないなど制限があり、外国人の流動を妨げている部分も残りますが、いずれ改善されるでしょう。
仮に在留人数が多い製造業群で見たときに、在留人数が日本で最も多い愛知県に所在するトヨタグループを始め、世界に誇れる技術を有する企業が数多くあります。昨年の特定技能制度の変更では、主に製造業に変更が加えられました。
製造業が国からの支援も受け外国人を積極的に受け入れ日本をリードし、他業界でもAIなどの最新技術を活用しながら定着を図る企業・団体が増えていくことになれば、日本が再び脚光を浴びる日が来るかも知れません。
外国人の定着を図るに当たり、社内のリソースで不足する場合は、社外へ委託することをご検討いただくのも良いのではないでしょうか?