特定技能の採用費はどれくらいかかるの??
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少子高齢化による人材不足問題を解決するため、2019年に政府は「特定技能」という新しい在留資格を新設しました。
特定技能で在留している外国人は、制度がスタートして以来、1,621人(2019年末)となっています。政府が発表した受け入れ人数は31万人であり、これからの受入れ体制の拡充が期待される制度です。
特定技能ビザを使った採用をまさに今、検討されている方も、この記事を読んでいる方には多いのではないでしょうか。
一方で、実際に利用する際の懸念として、
- 特定技能はどんな費用が発生するのか?
- 特定技能の採用相場はどれくらいなのか?
- 特定技能のコストを抑える方法はないのか?
といったご相談も受けます。
この記事では、そんな疑問を解消するために、特定技能の費用内訳や相場、コストを抑える採用方法などをまとめてみました。
そもそも採用コストとは?
そもそも、採用コストは人を採用するためにかかる費用の合計のことです。
一人当たりの採用コストである「採用単価」は、「採用コスト総額」÷「採用人数」で計算することができます。新卒や中途社員、アルバイト社員など、どの雇用形態で人を採用したいかによって採用コストの総額は変わってきます。
特定技能の採用の場合、これまでの外国人採用では発生しなかった費目が存在するので注意が必要です。
では、特定技能での採用コストはどれくらいでしょうか。
特定技能での採用コストの内訳
採用コストは、一般的に「内部コスト(社内コスト)」と「外部コスト(社外コスト)」に分けられます。
「内部コスト(社内コスト)」とは、求職者を採用する際に要した社員の人件費になります。求職者の選考対応や面談、採用後のビザ手続きにかかる書類作成時間などが含まれます。
「外部コスト(社外コスト)」とは求職者を採用する際に、求人広告にかけた費用や人材紹介会社に払った手数料などの、自社では対応できない業務の代行手数料の合計です。
特定技能で採用する場合の「外部コスト(社外コスト)」と「内部コスト(社内コスト)」の内訳は以下のようになります。
内部コスト(社内コスト) | 外部コスト(社外コスト) |
求人作成 ・各求人媒体や人材紹介会社との打ち合わせ ・選考 ・求職者との連絡・日程調整 ・面接 ・採用決定後のアフターフォロー ・特定技能のビザ申請書類の作成 ・ビザ申請完了後の登録支援機関業務 |
有料の求人広告への掲載費用 ・人材紹介会社の利用料 ・(ビザ申請を委託する場合)行政書士へのビザ申請業務委託費 ・出入国管理庁へのビザ申請費 ・(海外在住の外国人を採用した場合)求職者のフライト費用 ・(登録支援業務を委託する場合)登録支援機関への業務委託費 ・健康診断費 |
内部コスト(社内コスト)解説
採用の内部コストについて解説します。人材を採用する際は、通常、求人作成や求職者との連絡、面接実施などの求職者対応の時間がかかります。特定技能の場合、通常の採用と同様に求人作成や面接を実施する時間が発生します。
ただし、求職者の選考の際に、
- (国内在住者の場合)在留カードで、在留資格を所有しているか・期限が切れていないかを確認
- ビザ申請に必要な日本語能力試験や特定技能測定試験に合格しているか
- (留学生ビザで国内在住の場合)週のアルバイト時間が28hを超えていないか
などの確認が必要です。
*面接する際の注意事項に関する詳細は以下の記事をご覧ください。
また、特定技能のビザ申請に必要な書類を作成する時間やビザが無事に下りた後には、外国人の生活支援業務(支援業務)が発生します。
国内の留学生を採用するのか、海外の外国人を採用するのかにもよりますが、特定技能のビザ申請に必要な書類は、70種類以上もあります。(法務省「在留資格認定証明書交付申請「特定技能」(これから日本に入国される外国人の方)」)
支援業務は政府によって行うべき内容が定められています。
- 5時間の事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 8時間の生活オリエンテーション
- 公的手続き等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流機会
- 転職支援(企業の都合により人員整理を行う場合)
- 年4回以上の定期的な面談・行政機関への通報
*登録支援機関に関する詳細は以下の記事をご覧ください。
また、1~10の他に支援業務の遂行状況などを地方出入国在留管理庁または地方出入国在留管理局支局に報告・届出を行う必要があります。加えてや登録事項に変更があった場合や、トラブルが起きた場合の対応も必要です。これらを踏まえると、おおよそ200時間ほどの対応工数が必要になります。
業務の中には、外国人が日本語を十分に理解できない場合、母国語で対応する必要がある業務もあります。支援業務担当者と通訳を行う担当者の人件費を1社で賄おうとすると、それなりの人件費がかかります。
なお、特定技能のビザ申請や支援業務などは、外部委託が可能になっております。かかる内部コストを踏まえた上で、外部委託するか、内部で処理するかを決めましょう。
外部コスト(社外コスト)解説
外部コストについて解説します。
項目 | 業界相場 |
人材会社への採用手数料 | 理論年収の30~40% |
特定技能ビザの申請委託費 | 10~20万円 |
特定技能ビザの在留資格更新許可申請費(国内在住者を採用した場合) | 5~10万円 |
特定技能ビザの在留資格認定証明書交付申請費(海外在住者を採用した場合) | 10万円~15万円 |
登録支援機関委託費 | 月額3~5万円 |
渡航費(海外在住者を採用した場合) | 10~15万円 |
健康診断受診費 | 1万円 |
求職者を集めるために、人材紹介会社や有料の広告媒体を利用する方も多いでしょう。
人材紹介会社を利用した場合、採用手数料は業界相場として採用時に合意した年収の30~40%と言われております。
また、有料の広告媒体を利用した場合は、月額5~10万円で掲載可能です。
その他、特定技能では、採用した後に「ビザ申請」が必要です。これは、自社で対応するか、ビザ申請専門の行政書士に委託するかを選ぶことができます。
ただ、特定技能のビザ申請は、提出書類が他のビザと比較しても多く(70以上の書類が必要)、書類作成のルール自体も複雑なため、在留許可を確実に取得するためにも外部委託がおすすめです。特定技能ビザ申請の委託相場費用としては、10~20万円になります。
また、ビザ申請は大きく2つに分けられ、海外にいる外国人が新しく在留資格を取得するための「在留資格認定証明書交付申請」と、日本に在住している外国人が既に持っている在留資格を特定技能に変更するための「在留資格変更許可申請」があります。それぞれによって金額が多少異なります。
また、ビザ申請費を外国人に負担してほしいという企業様の声も聞きますが、ビザ申請費を外国人本人に負担させることは、原則禁止されております。
無事にビザ申請許可が下りた後は、外国人の生活支援を行う支援業務が必要になります。支援業務には、外国人への事前ガイダンスや生活オリエンテーションなどが含まれます。支援業務は登録支援機関に外部委託でき、相場として月額3~5万円で委託可能です。
その他、海外から外国人を採用した場合、国にもよりますが、10~15万円の渡航費が必要になります。渡航費に関しては、送り出す国の規制やガイドラインによって誰が負担するかが変わります。
国によって特定技能を申請する外国人は、健康診断を受ける義務があります。こちらは受け入れ企業が負担することになっており、健康診断受診費の相場は1万円ほどです。
採用ルートによる採用コストの違い
採用コストは、「国内・海外どちらに住んでいる人を採用するか」によって大きく変わります。それぞれで発生する採用コストを説明します。
国内在住の求職者の場合
国内在住の留学生などを採用する場合、現在住んでいる場所からの引っ越し費用やビザ申請費が発生します。また、ビザ申請を外部委託する場合、10~15万円の外部委託費がかかります。
海外在住の求職者の場合
海外在住の外国人を採用する場合、日本に来るための渡航費が発生します。国にもよりますが、10~15万円ほど必要になります。加えて、在留資格の申請にかかる委託費用も相場として10~15万円と、国内在住人材の場合と比較して、+5万円ほど金額が上ります。
また、海外在住の求職者の場合、現地の送り出し機関を仲介する必要があります。送り出し機関は、求職者への日本語教育やビジネスマナーなどの教育を行ってます。紹介を受ける際には、「教育費+紹介手数料(年収の30~40%)」が必要になります。(*国によって手数料額は前後します。)
送り出し機関への仲介手数料は、直接求職者とコンタクトを取る手段をもっていたとしても支払う必要があります。理由としては、日本政府が送出し国それぞれと締結する「特定技能制度に係る協力覚書(MOC)」によって、特定技能で直接入国することが禁止されているためです。
平均的な採用コストの総額
前提として、採用コストは国内在住の人を採用するのか、海外の人を採用するのかで異なります。
日本に在住する留学生を採用し、特定技能のビザ申請や登録支援機関業務を外部委託した場合、外部コストだけで相場として、一年目で100万円~130万円かかるでしょう。
【年収280万円の人材を採用した場合の外部コスト】】
項目 | 金額相場 |
採用手数料(理論年収の30%) | 84万円 |
在留資格認定証明書交付申請の代行費 | 10~20万円 |
登録支援機関費用(1年分/単月3万円) | 36万円 |
在留資格更新許可申請の代行費 | 5万円 |
合計 | 約135万円 |
また、海外から外国人を採用する場合は、国によって送り出し機関を仲介する必要があります。その場合、送り出し機関への紹介費や教育費を支払う必要があります。これは、特定技能に関する二国間協定覚書(MOC)によって決まってきます。
ちなみに、送り出し機関へ支払う費用は、国によって違いがありますが、ベトナムやミャンマーで30万円~40万円ほど必要になります。また、フィリピンでは、50~100万円と相場が高くなっております。
理由としては、ベトナムやミャンマーでは送り出し機関が求職者から手数料を徴収できる一方で、フィリピンでは手数料の徴収が禁止されているためです。これは、国ごとに結ばれる特定技能制度に係る協力覚書(MOC)によって決まっています。
そのため、フィリピンでは、求職者から徴収できない分、企業に金額を上乗せて徴収されています。
海外から求職者を採用する場合、この「送り出し機関への紹介費」や「教育費」を支払う必要があるので注意が必要です。
採用コストを抑えるには?
ここまでは採用コストにどんな項目が含まれるかの話をしてきました。ただ、記事を読まれている経営者・採用担当者の方には、「特定技能の採用コストをもう少し抑えられないか?」と思った方もいると思います。
ここからは、採用コストを抑える方法をご紹介していきます。
①採用した外国人のリファラル(紹介で採用)
アルバイトや既に働いている外国人社員に求職者を紹介してもらいましょう。
採用したい外国人が留学生の場合は、日本在住の同じ国同士の情報ネットワークやコミュニティを持っているケースがほとんどです。そういったコミュニティで仕事を探している外国人がいないか確認してみましょう。
同じ国籍の求職者を採用できる可能性があります。
②ダイレクト・リクルーティング(求職者データベースを活用)
外国人求職者を直接紹介してくれる人材紹介会社を利用した場合、手数料の平均は、採用決定時の求職者の年収の30~40%ほどです。
一方で、採用担当者が自ら求職者データベースなどで求職者を探すダイレクト・リクルーティングサイトを利用すると、年収の15~30%で採用可能になっています。
人材紹介が介在しない分、求職者のフィルタリングコストも発生するので、注意が必要です。
③内部コスト(社内の人件費)の適正化
自社の業務をマニュアル化し、採用にかかる人件費や時間を見直しましょう。
例えば、求職者と連絡する際、メールの提携文章を用意するなどして、一から作成しないようにしたり、面接での確認事項をチェックリストにまとめておくなどをするだけで、作業効率がアップします。
またマニュアルをもとに業務改善や効率化を行うことも可能でしょう。
④求職者の辞退を防ぐ
採用した求職者が採用辞退してしまっては、それまでの採用コストが無駄になってしまいます。求職者が採用辞退にならないように、採用決定後のビザ申請を速やかに行ったり、定期的に連絡をし、関係値を深めるなどをして、求職者のフォローをしましょう。
特に、ビザの申請を早く済ませたい外国人はビザ申請の対応が遅いと、他の企業を探し出してしまいます。採用してからビザ申請まで余裕があるからといって、対応を後回しにしていると、辞退に繋がるので、速やかに申請業務を行いましょう。
採用した人が留学生の場合、特定技能の前にアルバイトとして雇って、店舗で働いてもらうのも採用者の囲い込みとして有効ですね。
⑤ミスマッチを防ぐ
採用時点で合意していた仕事内容と実際の仕事内容が異なるなどしてミスマッチが起きると、採用者が早期に退職してしまう原因になります。ミスマッチを防ぐためにも、
- 実際にお店に来て、仕事を見てもらう
- 面接時に要望を聞いた上で、条件のすり合わせを行う
などの対策を取りましょう。
相互の期待値のズレが小さくなるように、真摯に対応しましょう。
⑥助成金の活用
特定技能外国人を採用する際に、助成金を使うことで企業が支払う採用コストを下げることができます。たとえば、「人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース)」、「雇用調整助成金」などが活用できます。
全ての企業が使えるわけではありませんが、自社が助成対象か調べてみると良いでしょう。
⑦Facebookの活用
外国人の中には仕事を探す際に、Facebookを活用して、特定技能就職コミュニティで採用情報を得ている人もたくさんいます。そういったコミュニティで自社の応募を行うことで、人材紹介を使わずに、採用できる可能性があります。