特定技能ビザと技能実習の違い
- 特定技能
外国人が日本に滞在するための制度には様々な種類があります。
その中でも、「特定技能」と「技能実習制度」は外国人を日本企業で受け入れるという点で制度の構造が似ており、混同されがちです。みなさんはこの2つについて正しく理解されていますか?
こちらの記事では、「特定技能」と「技能実習制度」の2つに関して、違いや特徴を分かりやすく説明します。
特定技能とは?
外食、飲食料品製造業など、14の特定産業分野で外国人の雇用が可能な就労ビザです。
特定技能は日本の働き手不足の問題を背景に、国外からの労働者の確保を目的とした制度です。この制度は2019年4月に始まりました。
特定技能ではビザ取得のために一定の知識または経験を必要としています。ビザ取得条件として技能測定試験を設けており、一定の能力水準がある人だけが在留資格を取得できます。
また、悪質な仲介事業者の排除のため、日本政府と送出し国の政府が二国間取決め(MOC)を締結しています。
2020年2月末時点での運用状況として、在留資格「特定技能」の在留資格認定証明書交付数は3467件となっており、まだまだ数は少ないながらも確実に利用者数が増加しています。
外部リンク:
新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(出入国在留管理庁)http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf
技能実習とは?
技能実習制度は、国際貢献の観点から技能実習生の技能習得・技術移転を目的として外国人の受入れができる制度です。そのため、就労ビザとしてではなく、発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進のための制度として機能しています。
近年の制度運用状況としては、対象職種の追加として、介護職種や空港グランドハンドリング職種での受入れが可能になったり、技能実習の適正化に向けた新たな取り組みが行われています。
外部リンク:
2019年版出入国在留管理(出入国在留管理庁)第2部第5章よりhttp://www.moj.go.jp/content/001310184.pdf
2018年における運用状況として、在留資格「技能実習1号」の新規入国者数は14万4,195人です。在留資格「特定技能」の新設により、人数が少なくなることも予想されましたが、前年の2017年に比べ1万6,524人(12.9%)増加している状況です。
■在留資格「技能実習1号」の新規入国者数の推移(国籍・地域別)
外部リンク:2019年版出入国在留管理(出入国在留管理庁)第1部第1章図表8より
http://www.moj.go.jp/content/001310183.pdf
特定技能と技能実習の関係
技能実習制度で日本に来る技能実習生が、主に「非専門的・非技術的分野」の業務に携わることが認められているのに対し、在留資格「特定技能」では「専門的・技術的分野」での就労が可能です。
すなわち、「技能実習」より高度で専門的な働き方ができるのが「特定技能」であると言えます。
また、外国人が在留資格「特定技能」を取得するためには、一定の能力水準を満たす必要がありますが、「技能実習」の内容を修了することにより、これの証明が可能になります。
外部リンク:
新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(出入国在留管理庁)
http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf
特定技能と技能実習の比較
特定技能と技能実習について比較をしていきます。まずは比較表をご確認ください。
詳細については、比較表の後の項目で説明していきます。
特定技能 ※1号 | 技能実習 ※監理団体型 | |
制度の目的 | 国外からの労働者の確保 | 国際貢献として、OJTを通じた技術移転 |
受入れ可能業種 | 82職種 | 特定産業分野(14分野) |
在留期間 | 最長通算5年 | 最長通算5年 |
外国人の技能水準 | 一定水準の知識又は経験が必要 | なし |
受入れで関わる外部機関 | ・登録支援機関 | ・送出し機関 ・監理団体 |
企業の採用方法 | 受入れ企業が直接的に採用、または国内外の人材あっせん機関等を通じて採用 | 監理団体と送出機関を通じて間接的に採用 |
企業の採用人数上限 | 人数制限なし | 人数制限あり |
活動・業務内容 | 専門的・技術的分野での業務 | 主に非専門的・非技術的分野での業務 |
転職 | 可能 | 原則不可 |
家族滞在 | 不可 ※2号の場合は可能 | 不可 |
行政手続き | ・在留資格審査(法務大臣) ・就労状況・支援状況の届出(地方出入国在留管理局) |
・在留資格審査(法務大臣) ・技能実習計画認可、実習実施状況の届出(外国人技能実習機構) |
関係法令 | ・出入国管理及び難民認定法 | ・外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 ・出入国管理及び難民認定法 |
外部リンク:新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(出入国在留管理庁)
http://www.moj.go.jp/content/001293198.pdf
制度の目的
■特定技能
生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお、人材を確保することが困難な状況にある「特定産業分野」にて、国外からの労働者の確保を目的とした制度。
■技能実習
国際貢献のため、開発途上国等の外国人を技能実習生として日本で一定期間に限り受け入れ、OJTを通じて母国に技能を移転することを目的とした制度。
技能実習生は、入国直後の講習期間以外は、雇用関係の下、労働関係法令等が適用される。
受け入れ可能業種
■特定技能
特定産業分野(14分野)で受入れが可能。
介護
ビルクリーニング
素形材産業
産業機械製造業
電気・電子情報関連産業
建設
造船・舶用工業
自動車整備
航空
宿泊
農業
漁業
飲食料品製造業
外食業
■技能実習
82職種146作業で受入れが可能。
農業関係(2職種6作業)
漁業関係(2職種9作業)
建設関係(22職種33作業)
食品製造関係(11職種16作業)
繊維・衣服関係(13職種22作業)
機械・金属関係(15職種29作業)
その他(16職種28作業)
在留期間
■特定技能
通算で最長5年まで在留することが可能です。更新は1年、6か月、または4か月ごととなります。
■技能実習
通算で最長5年まで在留することが可能です。
技能実習1号:1年以内
技能実習2号:2年以内
技能実習3号:2年以内
ただし、業種によって「技能実習2号」「技能実習3号」の在留資格がない場合があります。また、外国人が「技能実習2号」や「技能実習3号」に在留資格を移行する場合には、外国人本人が試験に合格する必要があります。
外国人の技能水準
■特定技能
在留資格を取得するために、2つの点について、外国人が一定の技能水準を満たす必要があります。
1つ目は、各産業分野ごとに応じた一定水準の知識又は経験があるかです。各産業分野ごとに用意される「技能測定試験」によって水準を満たすかの確認がなされます。
ただし、同分野の技能実習2号を修了した外国人は試験免除となります。
2つ目は、生活や業務に必要な日本語能力があるかです。
「日本語能力試験(JLPT)」N4以上または、「JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)」に合格する必要があります。ただし、技能実習2号を修了した外国人はその分野に関わらず試験免除となります。
■技能実習
在留資格を取得するためにクリアしなければならない技能水準や試験はありません。
ただし、介護職種のみ日本語能力要件を求められます。
受入れで関わる外部機関
■特定技能
・登録支援機関
在留資格「特定技能」によって特定技能外国人を雇用する場合に発生するビザ申請手続きや住居確保などの支援について専門に担当する機関です。受入れ企業が登録支援機関に委託するかたちで関わることになります。受入企業は自社で行うことも可能です。
登録支援機関は、出入国在留管理庁による登録制で、行政書士や日本語学校などが登録しています。
■技能実習
・送出し機関
日本に来る技能実習生が所属する、現地の送出し機関です。現地政府の推薦又は認定を受けた機関である必要があります。技能実習生が日本に来る前に行う準備として、日本語学習や制度説明についての支援をします。
・監理団体
技能実習生受入れ企業に対して、適切な制度運営が成されているかの監査やその他監理事業を行う機関です。送出し機関と受入企業の仲介に入ることで、技能実習生受入れの支援を行います。
監理団体は主務大臣による許可制で、非営利の事業協同組合などが許可を取得しています。
企業の採用方法
■特定技能
通常、国内にいる外国人であれば、日本人を採用するプロセスと同様に書類選考や面接を行い採用者を決めることが可能です。企業が直接採用するほか、あっせん機関等を通じて採用することも可能です。
国外にいる外国人であれば、直接海外で採用活動を行うか、国外のあっせん機関等を通じて採用することも可能です。国に応じて送出し機関が仲介する場合もあります。
ビザ申請の手続きは、採用者決定後に行います。
■技能実習
通常、監理団体型の技能実習では、受入れ企業は監理団体に委託をします。監理団体は現地の送出機関と直接やりとりすることで技能実習生受入れプロセスを受入れ企業に代わり実施します。
企業の採用人数上限
■特定技能
採用人数に上限はありません。
ただし、介護分野・建設分野では一定の制限があります。
■技能実習
受入れ企業の常勤職員の人数に応じて、受入れ人数に上限があります。
実習実施者の常勤の職員の総数 | 技能実習生の人数 |
301人以上 | 常勤職員総数の 20分の1 |
201人~300人 | 15人 |
101人~200人 | 10人 |
51人~100人 | 6人 |
41人~50人 | 5人 |
31人~40人 | 4人 |
30人以下 | 3人 |
活動・業務内容
■特定技能
産業分野に応じた一定水準の知識又は経験を必要とする技能が求められる業務に従事します。
■技能実習
非専門的・技術的分野について、講習を受けるなどした上で業務に従事します。
転職
■特定技能
特定技能外国人が現在働いている業務区分と同一、または試験によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分において転職が可能となっています。
■技能実習
原則、転職することができません。
ただし受入企業が倒産した場合など、やむを得ないケースには認められます。
現在も、新型コロナウイルス感染症の影響によって解雇となり、実習の継続が困難になった技能実習生を対象に再就職の支援を進める措置が出入国在留管理庁において取られています。
家族滞在
■特定技能
基本的に認められていない。
ただし、特定技能2号の場合は可能となる。現在2号がある特定産業分野は、建設業と造船・舶用工業のみ。
■技能実習
基本的に認められていない。
行政手続き
■特定技能
- 在留資格審査(法務大臣)
- 就労状況・支援状況の届出(地方出入国在留管理局)
■技能実習
- 在留資格審査(法務大臣)
- 技能実習計画認可、実習実施状況の届出(外国人技能実習機構)
関係法令
■特定技能
出入国管理及び難民認定法(改正入管法)
■技能実習
出入国管理及び難民認定法(改正入管法)
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)
まとめ
いかがでしたでしょうか。在留資格「特定技能」と在留資格「技能実習」は似て非なる制度です。外国人を自社に受けれいるにあたりどちらの制度が有効か、特に、制度設立の目的、運用のルールなどについてはぜひ確認頂ければと思います。