特定技能外国人にも適用される脱退一時金について説明します
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日本の会社に入ると厚生年金保険に入ることになります。老齢厚生年金は、長い間会社で働いた労働者の老後の生活を支えるために作られた制度で、厚生年金保険に10年以上加入していた人が65歳になったら年金がもらえます。厚生年金の保険料は毎月の給料や年に2回くらいある賞与(ボーナス)から自動的に引かれて支払っています。
しかし、外国人が日本で10年より短い期間働いて母国に帰国すると、老齢厚生年金を受け取る権利も得られないで、日本で支払った厚生年金保険料が無駄になることがあります。
アメリカ、オーストラリア、ブラジルなど日本と社会保障協定を結んでいる国の外国人は、母国で老齢年金をもらうために年金加入期間を計算するときに、日本での年金加入期間も使えるので、日本での年金加入期間が無駄になりません。
脱退一時金は、短い期間で母国に帰った外国人が日本にいたときに支払った年金保険料を返してもらう制度です。脱退一時金をもらうには要件があり、その金額は日本にいたときに支払った保険料の全額ではありません。注意する点もありますので、その説明をします。
まず、以下の①~④の全てに該当するときに脱退一時金を請求することができます。ただし、請求日は日本に住所がなくなった日から2年以内でなければなりません。
① 国籍が日本ではない
② 厚生年金保険の加入期間が6か月以上ある
③ 日本に住所がない(市区町村の役所に転出届を出さなければならない)
④ 年金(老齢・障害・遺族の年金と障害手当金)を受ける権利を得たことがない
提出書類
・脱退一時金請求書添付書類
① パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ)
② 日本国内に住所がないことが確認できる書類(住民票の除票の写し等)
③ 銀行名・支店名・支店の所在地・口座番号および請求者本人の口座名義であることが確認できる書類(銀行が発行した証明書等)
④ 基礎年金番号が確認できる書類(基礎年金番号通知書や年金手帳など)
提出時の注意
日本から出国する前に日本年金機構に請求書を提出することもできますが、役所に届け出た転出届に書いた転出日の後でなければなりません。
転出届には転出予定日を書くこともできるので、その日より前に請求書を出してしまうと、日本に住所があるうちに請求書を出すことになり、要件を満たさなくなります。日本年金機構に郵送する場合は、役所に届け出た転出届に書いた転出日の後に日本年金機構に届くようにしなければなりません。
脱退一時金を請求する際の注意事項
将来、年金を受け取る可能性を考えて、脱退一時金をもらった方がよいと判断したら請求します。
① 老齢年金の受給資格期間(年金加入期間が120か月以上あれば将来日本の老齢年金が受給できます)
請求時において、年金の受け取りに必要な年金加入期間が120か月以上ある場合、将来、日本の老齢年金を受け取ることができるため、脱退一時金を請求することはできません。年金加入期間が120か月未満の場合、脱退一時金を請求することができますが、脱退一時金を受け取った人は、脱退一時金を請求する前に日本の年金に加入していた期間が0か月になります。例えば、年金加入期間が100か月ある人が60か月分だけ脱退一時金を請求して、残り40か月を年金加入期間として残しておくことはできません。
② 加入期間の通算
日本と社会保障協定を結んでいる国の年金制度に加入していた期間がある人は、加入期間を全部足して120か月以上あったら、脱退一時金を請求することはできません。120か月未満だったら脱退一時金を請求することができますが、脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金を請求する前に日本の年金に加入していた期間が0か月になります。
【日本と年金通算の社会保障協定を締結している相手国(2022年6月現在)】
ドイツ、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、フィンランド、スウェーデン(イギリス、韓国、中国とは社会保障協定を結んでいますが年金加入期間の通算はできません)
③ 支給額計算の上限
脱退一時金の支給額は、日本の年金制度に加入していた月数に応じて計算されますが、60か月分が上限となります。例えば、年金加入期間が60か月ある人が受け取る脱退一時金は60か月分で、100か月ある人が受け取る脱退一時金も60か月分です。
脱退一時金の支給額の計算
脱退一時金のおよその額 = 厚生年金に入っていた期間の平均標準報酬額 × 支給率
振り込まれる額は、脱退一時金の額から税金が約20%引かれた額になります。
厚生年金に入っていた期間の最後の月が2021年4月以降の場合
厚生年金に入っていた期間 | 支給率 |
---|---|
6か月以上12か月未満 | 0.5 |
12か月以上18か月未満 | 1.1 |
18か月以上24か月未満 | 1.6 |
24か月以上30か月未満 | 2.2 |
30か月以上36か月未満 | 2.7 |
36か月以上42か月未満 | 3.3 |
42か月以上48か月未満 | 3.8 |
48か月以上54か月未満 | 4.4 |
54か月以上60か月未満 | 4.9 |
60か月以上 | 5.5 |
平均標準報酬額
平均標準報酬額 = 厚生年金に入っていた期間の各月の標準報酬月額と標準賞与額の合計 ÷ 厚生年金に入っていた期間の月数
脱退一時金にかかる所得税
脱退一時金には20.42%の税金がかかり、支給されるときに源泉徴収されます。つまり、脱退一時金の支給額から税金が引かれて銀行口座に入金されるのですが、税務署に手続きをすれば、支給のときに引かれた税金が戻ってきます。
帰国する前に、最後の住所地にある税務署に「所得税・消費税の納税管理人の届書」という書類を提出しておきます。納税管理人は、日本にいる人で、税金が戻ってくる手続きをしてお金を受け取る人です。信用できる人にお願いして納税管理人になってもらいます。
脱退一時金が送金されるときに「脱退一時金支給決定通知書」が送られるので、その原本を日本にいる納税管理人に送ります。そして、その納税管理人が税務署に行って「脱退一時金支給決定通知書」と「退職所得の選択課税による還付のための申告書」という書類を出して税金が戻ってくる手続きをします。
請求者が脱退一時金の支給を受けずに死亡した場合
脱退一時金を請求した後、その本人が死んでしまった場合、同じ一つの家計で生活していた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族が代わりに支給を受けることができます。
複雑さを避けるため、国民年金の脱退一時金には触れませんでした。支給額計算の上限は2021年3月まで36か月でしたが、触れていません。日本にいた期間に国民年金に入っていた人や2021年3月以前に日本の年金制度を止めた人の脱退一時金は計算の方法が違うので受け取る金額が異なります。