使用者と労働者の約束事2 ~特定技能労働契約を知ろう~
- 人事・労務
【労働契約シリーズ】
記事URL:使用者と労働者の約束事1 ~労働契約を知ろう~
今回は、労働時間について、休憩や休日も合わせて、法律に定められたルールを説明します。また、労働に対して支払われる賃金についても、使用者が守らなければならないルールを説明します。
労働時間の決まり
労働時間(労働基準法第32条)
30年や40年前までは毎日夜中まで働くことが美徳とされていましたが、働き過ぎて疲れがたまったまま無理を続け、結局心臓や脳の血管の病気で亡くなる人が増えました。さらに過労によるストレスで精神的に追い詰められて自殺する人も増えてきて、長時間労働は国として対策を考えなければならないほどの問題になりました。
労働者が働きすぎにならないように、働く時間の長さは法律で制限されています。労働基準法では、労働時間を1日8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならないと定めていて、これを法定労働時間といいます。
この労働時間をごまかすと法律で定めた意味がなくなるので、国は、会社が労働時間を正しく計るために「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」という通知を出し、具体的にどうやって労働者の始業・終業時刻を確認し、記録していくかを説明しています。
労働基準監督署が会社に来て調査に入ったときに、労働時間管理が適正になされていなくて賃金の未払いや長時間労働が見つかった場合、ガイドラインに沿った時間管理を指導されることになります。
時間外労働、36協定(労働基準法第36条)
法律では1日8時間、1週間に40時間を超えて働かせてはいけないという決まりがあっても、実際には1日8時間、1週間に40時間を超えて仕事をしている人は大勢います。それは、手続きを踏めば法定労働時間を超えて労働者を働かせることができるという法律が別にあるからです。
労働者の過半数を代表する人と使用者との間で「時間外労働・休日労働に関する協定」を結び、労働基準監督署に届け出ればよいのです。この協定は労働基準法第36条に規定されていることから「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。36協定により延長できる労働時間には制限があり、例えば1か月では45時間まで、1年で360時間までなどと決まっています。
労働基準監督署に36協定を出さずに法定労働時間を超えて労働者を働かせていた場合、使用者は労働基準法違反で罰せられることになります。実際にはいきなり罰せられるのではなく、労働基準監督署に違反状態を指摘され、労働者を正しく働かせるように指導され、再三の指導にもかかわらず改善しない場合には悪質な違反だと判断され、会社が書類送検されることもあります。
休憩・休日(労働基準法第34条、第35条)
使用者は1日の労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも60分の休憩を勤務時間の途中で与えなければなりません。
休憩時間は労働者が自由に利用できるものでなければならないので、休憩中でも電話や来客の対応をするように指示されていれば、それは休憩時間ではなく労働時間とみなされます。
また、労働契約において労働義務を免除されている日のことを休日といいます。使用者は労働者に毎週少なくとも1回、あるいは4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。これを法定休日といいます。
年次有給休暇(労働基準法第39条)
年次有給休暇とは、会社で決まっている休日以外の日に仕事を休むことができる日のことで、その日については給料が出ます。労働者の心身の疲労を回復させ、また、仕事と生活の調和を図るために、法律で決められた休みです。使用者には、条件を満たす労働者に年次有給休暇を与えなければならないという義務があります。
労働者は、半年間継続して雇われていて、全労働日の8割以上を出勤していれば、その後の1年間に10日の年次有給休暇を取ることができます。さらに勤続年数が増えていくと、1年間に8割以上の出勤の条件を満たしていれば、その後の1年間に付与される休暇日数が増えていき、勤続6年6か月になるとその後の1年間に20日の年次有給休暇が取れる権利が発生します。
勤続年数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
年次有給休暇は正社員の人だけが取れる権利ではありません。パートタイマーでも、アルバイトの人でも、勤続年数と出勤率の条件を満たせば、その人の所定労働日数に応じた日数の年次有給休暇が与えられます。
賃金に関する決まり
最低賃金(最低賃金法)
使用者が支払わなければならない賃金の最低限度額は「最低賃金法」によって定められています。最低賃金額は、都道府県や業種ごとに決まっていて、例えば東京都では、時給1,072円です(令和4年10月1日発効)。
もし、労働者が時給500円で働くことに同意してしまったとしても、その労働契約は法律によって無効となり、最低賃金額と同額の契約をしたものとみなされます。
したがって、使用者は500円×時間の賃金に加えて、最低賃金との差額×働いた時間分(東京都なら1,072-500=572円×時間)の賃金を支払わなければなりません。
最低賃金法の違反には、労働基準法と同様に懲役や罰金の罰則があります。
賃金の支払方法(労働基準法第24条)
賃金が労働者に確実に支払われるように支払方法についても法律に決まりがあります。
賃金は現金で支払われなければなりません。会社の商品など現物で支払ってはいけません。現金というのは、1万円札や100円硬貨といった手で触れるお金だけではなく、銀行振り込みなどでもよいことになっています。
賃金は労働者本人に直接支払われなければなりません。例えば、未成年者だからという理由で、代わりに親などに支払ってはいけないことになっています。
賃金は全額支払われなければなりません。ただし、所得税や社会保険料の本人負担分などは法律によって使用者が賃金から差し引いて支払うことが認められています。それ以外は、労働者の過半数を代表する人との間で結んだ労使協定で定めたものに限って認められます。例えば、「社内預金」や「労働組合費」などを賃金から差し引いて本人に支払うには労使協定を結ぶ必要があるということです。
賃金は毎月1回以上支払われなければなりません。例えば、2か月まとめて支払うということは認められません。
賃金は一定の期日を定めて支払われなければなりません。例えば、支払日は「毎月25日」などとしなければならず、これを「毎月20日~25日の間」や「毎月第4金曜日」など月によって変わる日にすることは認められません。ただし、銀行振り込みなどの場合で支払日が銀行の休みの日だったら、その前日に振り込まれるのは問題ありません。
割増賃金(労働基準法第37条)
使用者が労働者に時間外労働等をさせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。
①法定労働時間を超えて働かせたときは25%以上の割増賃金
②法定休日に働かせたときは35%以上の割増賃金
③午後10時から翌日の午前5時まで(深夜)に働かせたときは25%以上の割増賃金
例えば、時給1,200円の人が1日8時間を超えて午後6時から午後8時までの2時間残業した場合、残業の2時間については1,200×2時間=2,400円に加えて1,200×25%×2時間=600円以上の割増賃金が支払われなければなりません。
また、法定労働時間外の労働で、それが深夜だった場合は、25%+25%=50%以上の割増賃金が支払われなければなりません。
この割増賃金は、正社員だけではなく契約社員、パートタイマー、アルバイトといった雇用形態の人にも適用されます。
使用者が労働者に法定労働時間外の労働、法定休日の労働、深夜の労働を行わせたにもかかわらず割増賃金を支払わなかった場合には、使用者は労働基準法違反に問われます。
まとめ
休暇と賃金は、労働条件の中でも一番関心の高い項目で、違う言い方をすれば、一番トラブルになりやすい要素です。使用者は労働者と労働契約を結ぶ際には休暇と賃金については特に丁寧に説明し納得を得た上で契約を結ぶようにしてほしいと思います。一方、労働者はしっかりその話を聞いて納得した上で契約を結んでほしいと思います。
使用者は契約内容である労働条件を確実に満たさなければなりません。結んだ契約は約束ですから、それを果たさなければうそつきになり、人を騙し、裏切ったことになります。信頼関係が崩れて争いになったら、争いの内容である金額の何倍ものお金と解決にかかる人の労力が浪費され、会社全体が疲弊します。そして必ず後悔します。
働く人の生産性はその人の体と心の健全性に大きく左右されます。元気な人とだる重な状態の人の働きの違いは3倍から4倍にまで広がると言われています。会社に活気をもたらすには労働者に健康で意欲的に働いてもらう必要があり、そのためには労働契約を適正な内容で結び、それを守っていただくことが重要なのです。