使用者と労働者の約束事1 ~労働契約を知ろう~
- 人事・労務
特定技能などの外国人材の受け入れにおいて、失踪などの入国後のトラブルは、事前に聞いていた話と違う、というのが最も多い原因です。
例えば、毎月支払う給料については、基本給部分と能力や実績に応じて支払われる手当部分がいくらなのか、給与総額がいくらで、税金、社会保険料など法定で控除が決まっているものや、会社の寮などに住まわせる場合の住居費や食費など、給料から天引きする額がいくらか、最終的な手取り金額がいくらになるのかを事前に説明し十分に理解してもらうことが不可欠です。
仕事内容についても、どのような場所でどのような業務に就くのか、どのような技能が必要な業務で、努力すれば将来的にどのような技能を身に付けられ、何ができるようになるか、業務の種類、作業内容、教育方針を詳しく説明して、受け入れ側と本人が合意しておくことが極めて重要です。
建設業の特定技能受入計画では以下のような書類を用意して申請することになっています。
出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)では、労働保険(労災保険、雇用保険)、社会保険(健康保険、厚生年金保険)及び租税に関する法令を遵守していることが、受け入れ企業が満たすべき基準の一つとなっており、特に保険料の個人負担がある雇用保険、健康保険、厚生年金保険は、在留期間の制限がある外国人が「そんなの要らないから保険料は払わない」と言ってもだめで、必ず被保険者資格を取得し、保険料を納付しなければなりません。
この保険料は月々の給料から天引きされることが法律によって認められており、被保険者は拒否できません。
ここに文章を記載する厚生年金保険については、老齢年金を受け取る時期まで日本にいない外国人のために、帰国した時に、納付済みの年金保険料額の一部を還付してもらうことができる制度(脱退一時金)がありますので、併せて説明しておくとよいでしょう。
労働契約法、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働法については、日本国内で働く人であれば日本人でも外国人でも適用されます。
労働基準法第3条は、労働条件面での国籍による差別を禁止しています。
雇用保険法についても、日本国内で就労する人については、原則として、国籍の如何を問わず被保険者として取り扱うこととしています。
ここからは、日本で働く会社員になるということを、労働契約法や労働基準法を使って解説しようと思います。
労働契約とは労働契約に関する法律
会社に就職しようとする場合、働く人(労働者)と雇う人(使用者)との間で、「働きます」「雇います」という約束=労働契約が結ばれます。どういう条件で働くかといった契約内容も労働者と使用者の合意で決めるのが基本です。
ただ、労働者と使用者の合意とはいっても、一人の労働者と使用者が同じ立場で話し合って労働条件を決めるのは現実には難しいことです。
労働者は給料をもらって生活していかなければならないので、まず雇ってもらう必要があります。そのために、給料や働く時間に不満があったとしても、会社の提示した条件通りに契約を結ばなければいけないかもしれません。
また、もっと給料を上げてほしくて会社と交渉しようとしても「今の給料が嫌ならもう会社に来なくていい」と言われてしまうかもしれず、結局、会社の言いなりに働くしかなくなるかもしれません。
つまり、実際には立場の弱い労働者が、低賃金や長時間労働など劣悪な労働条件の契約を結ばざるを得なくならないよう、労働者を保護するために労働契約法などの法律が定められています。
基本的な考え方がそういうことですから、労働契約法に限らず労働関係の法令は、使用者に対して具体的なことについて義務を課したり、制約したり、禁止したりする条文が多いのです。労働者の義務が、誠実に働くこと、会社の秘密を守ること、会社の信用・名誉を傷つけないことといった道徳的なことであるのとは対照的です。
労働契約に関する法律は、主に労働契約法と労働基準法に規定があります。
労働契約法は労働契約に関して労働者と使用者が守るべき民事的なルールを定める法律で、平成20年3月から施行されています。労働基準法は労働条件の最低基準を定めており、その規定に違反があった場合は労働基準監督署から監督指導され、悪質な違反には罰則が適用されることもあります。
労働契約とは(労働契約法第3条)
労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者が労働者に対して賃金を支払うことを内容とする契約のことで、労働者と使用者には労働契約を遵守することが求められます。
労働契約を締結・変更するときには次の5つの原則に従って行います。
②均衡考慮の原則 仕事の難しさ、責任の重さ、経験や能力、労働時間の長短といった就業実態に見合った賃金、待遇にすること
③仕事と生活の調和への配慮の原則 育児や介護などの状況に気遣って仕事と生活の両立がしやすくなるようにすること
④信義誠実の原則 約束を守り、誠実に務めを果たすこと
⑤権利濫用の禁止の原則 労働契約に基づく権利だからといって限度を超えてむやみに行使しないこと
労働契約の確認と理解(労働契約法第4条)
使用者は、労働契約の締結・変更前に、労働者に対して就業環境や労働条件を丁寧に説明し、労働者に分からないことがあったら誠実に答えなければなりません。また、労働契約の内容はできる限り書面で確認することが求められています。
労働者の安全への配慮(労働契約法第5条)
使用者には、労働者が体と心の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をすることが労働契約法で義務付けられています。必要な配慮とは、労働者の職種、業務内容、作業環境など具体的な状況に応じて、ケガをしたり病気にならないように安全装置を付けさせたり、無理のない作業工程にしたりすることです。
ここ数年問題となっている職場のいじめ・いやがらせ、パワーハラスメントといった点でも、使用者が人的物的な労働環境を整える義務、労働者への安全教育や適切な業務命令を行う義務を怠ったとされて、安全配慮義務違反に問われるケースが増えています。
契約によって約束した義務を果たさないことを債務不履行といいますが、安全配慮義務違反は正に債務不履行であって、労働者がこれによって被った損害を賠償してほしいと裁判に訴えることもしばしばあります。
労働条件の明示(労働基準法第15条)
労働契約を締結するときのプロセスとして、労働基準法では、使用者が労働者に対して労働時間や賃金などの労働条件を明示しなければならないと定めています。
・期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
・就業の場所、従事すべき業務に関する事項
・始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、就業時転換に関する事項
・賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払いの時期、昇給に関する事項
・退職に関する事項(解雇の場合の事由を含む)
・臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与等、最低賃金額に関する事項
・労働者に負担させるべき食費、作業用品などに関する事項
・安全及び衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・休職に関する事項
労働基準法が示す基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その基準に達していない部分について無効となり、無効となった部分は労働基準法で定める基準となります(労働基準法第13条)。
まとめ
日本国内の会社で働く限り、日本人も外国人も同じ法律に従わなければなりません。外国人は自分の国で働くときの常識やルールは知っているかもしれませんが、それが日本で働くときの常識やルールと同じとは限りませんから、外国人を受け入れる会社は事前によく説明して理解してもらってから受け入れることがとても重要です。
苦労して受け入れた外国人が失踪したり会社とトラブルになったりした場合の解決にかかる労力、時間、経済的損失は非常に大きいものがあります。
いい人に来てもらって、いい仕事をしてもらって、人として成長してもらって、感謝される会社になっていただきたいと思います。