「特定技能」で働く外国人の転職、実はハードルが高い!?特定技能転職の実情
- 特定技能
2019年に新しくできた特定技能では、転職が許可されています。
特定技能で転職が認められている背景の一つとして、特定技能と同様に外国人の受入れが可能な技能実習で「転職」ができないことが問題だったことが挙げられます。転職が認められていないため、人権侵害や違法搾取など受け入れ企業に問題がある場合にも、技能実習生は毎日職場に通い、働かなければなりませんでした。
これらの要因もあり、特定技能の制度では、転職を許可し、外国人が自由に転職する権利を持つ制度となっています。
これに対し、
「そうは言っても、採用してもすぐに転職してしまったらどうしよう」
と懸念される採用担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
たしかに特定技能では転職が認められています。しかし、実際、採用した方が働きだしてすぐに転職ができるような仕組みにはなっていません。
外国人の自由に転職できる権利を担保しながらも、転職に伴い発生するビザ変更申請などの関係で、日本人の転職と比べても難易度は高い状態です。
そこで今回は、特定技能の転職に必要な手続きの流れや、転職のハードルについて解説します。
特定技能外国人が転職する際のプロセス
特定技能の転職ハードルが高いプロセスとはどのようなものでしょうか。
まず、特定技能で転職する際のプロセスを、特定技能ビザで働くジョンさんがA社からB社に転職する流れを例に説明します。
- ジョンさんは特定技能ビザでA社で働いており、平行して転職活動を行っています
- ジョンさんは、B社へ転職が決まります
- ジョンさんは、現在働いているA社を退職し、B社と雇用契約を結びます
- 在留資格変更申請を行い、特定技能ビザの勤務先をA社からB社に変更します
この1~4のプロセスの中で転職を困難にする障壁が4つあるので、解説していきます。
障壁1 会社を自主退職して転職活動をする場合、失業中のアルバイトが禁止
日本で働く外国人は、所有している在留資格の種類により、日本でできる活動に制限が設けられています。
在留資格「特定技能」の場合、アルバイトは在留資格で許可されていない活動にあたるため禁止されています。
ゆえに、ジョンさんの場合、仮にA社に在籍しながら転職先B社を探すとしても、在留資格変更申請の期間は2~3ヶ月あります。その間アルバイトをせずに無収入で生活することは特定技能で働く外国人にとっては負荷が高いでしょう。
まして、特定技能で働いている外国人の多くは、母国の家族へ仕送りを行っている方もいらっしゃいます。転職活動期間中に仕送りが途絶えてしまうことを懸念し、家族のためにも、転職をためらってしまう可能性があります。
障壁2 国による、企業に対する他社からの海外人材引き抜き自粛要請
特定技能では、大都市圏や一部の大企業に特定技能の外国人が転職して集中してしまうことを懸念し、政府が企業間同士の引き抜きを自粛するよう要請しています。
例として、食品産業特定技能協議会では以下のような要請を出しています。
”新たな外国人材の受入れ制度を施行することにより,大都市圏等特定地域に外国人が過度に集中することや大企業への偏在が生じることが強く懸念されている。特に,飲食料品製造業分野においては,技能実習2号対象職種(水産加工,食肉加工,惣菜製造等)とそうでない職種が混在し,受入れ機関の間で無秩序な外国人労働者の引き抜きが行われれば,業界内の雇用秩序を乱すとともに,大都市への過度な集中を助長する可能性がある。
こうした点を踏まえ,大都市圏等特定地域に外国人が過度に集中することを予防する観点から,他地域で雇用されている外国人労働者を積極的に引き抜き雇用することを自粛することを申し合わせる。
(食品産業特定技能協議会 「特定技能所属機関による外国人労働者の引き抜き防止に係る申し合わせ」)”
明確に「引き抜き」の定義はされていませんが、国からの引き抜き自粛要請があるため、企業の採用活動が停滞することが考えられます。特に産業をリードする大企業では、その責任から国の自粛要請に応じると考えられ、採用停滞が顕著になるでしょう。このような背景から、特定技能ビザでの転職活動の難易度が上がる可能性があります。
いないので、今後情報が公開されるでしょう。
障壁3 転職する際の書類が在留資格の更新期限に提出できない可能性
特定技能で働く外国人の在留期間は最大5年間です。
ただし、特定技能ビザは、1年、6ヶ月または4ヶ月ごとに更新しなければなりません。
また、転職をし在留資格の変更をする場合、在留資格変更申請を出入国管理庁に提出する必要があります。仮に在留資格変更申請が在留資格の更新期限に間に合わなかったら、転職を考えていた特定技能の外国人は帰国せざるを得ません。例えば、A社を退職してB社に在留資格変更申請をする間に書類の準備や申請する期間も合わせると、2~3ヶ月はかかるでしょう。その在留資格変更申請の準備中に在留資格の更新期限が切れてしまうと、特定技能の外国人は帰国せざるをえません。(*ただし、在留資格更新申請を出入国管理庁に申請している間は、期限の満了日から2ヶ月間は日本に滞在出来ます。)
転職を考える外国人にとっては、ビザの更新タイミングも踏まえた上で転職活動を行う必要があります。
障壁4 在留資格変更申請が不許可になった場合、母国に帰国しなければならない
最大のリスクとしては、在留資格の変更申請が失敗したときに、母国に帰国しなければならなくなることでしょう。
特定技能のビザ変更申請は100%通る保証がないものです。
帰国する可能性を含んだ上で転職をするのは、特定技能で就労中の外国人にとってはとてもリスクの高いことでしょう。
入社した外国人に長く働いて活躍してもらうには?
ここまでは、特定技能外国人が転職するハードルが高い実情を説明してきました。一方で長く働いてもらうために、どんな取り組みすればいいかも気になるでしょう。
そこで、いくつか外国人に長く働いてもらうための取り組みを紹介していきます。
1同じ国の先輩を教育係にする
職場に定着してもらうため、採用した外国人の教育係を同じ国の出身の方にする手法が挙げられます。出身地が同じ先輩の存在は、母国から離れた日本で働くにあたり、非常に頼りになると考えられます。
仕事の作業内容を教えてもらったり、悩みを聞いてもらうなど、気兼ねなく相談できる関係性を作りやすく、また母国語を使った会話は安心感を生みやすいと言えます。
また、特定技能外国人の大半を占めるベトナムの方は同じ国の人に対しては親しみを持って接する文化が強いです。外国人社員の横の繋がりを強化することができるのではないでしょうか。
2従業員が異文化理解に関する勉強会や講義に参加
外国人と一緒に働くにあたり、文化や考え方の違いを理解し、お互いに歩み寄ることの大切さは誰もが感じていると思います。しかし、頭で分かっていても実際に行動に移すことは難しいものです。
ここでおすすめなのが、異文化理解に関する勉強会や講義への参加です。
外国人と一緒に働く上で気を付けるべきことや、間違った対応により起きてしまいがちな問題を、実際の事例を交えながら学ぶことができます。事前に知っておくだけで回避できる問題も多いはずです。
採用の担当者や経営者が参加されるのはもちろんのこと、現場で働くスタッフや現場管理者の方も参加されることがおすすめです。わかりやすい日本語を使ったコミュニケーション方法や外国人マネジメントのポイントなど、実践的な方法を学ぶことができます。
3日本人との情報格差を作らない
日本語の伝わりやすさの観点から、どうしても日本人と外国人で情報の格差が生まれてしまいがちです。必要な情報が伝達されていないと、たとえ優秀な日本人であってもうまく仕事ができません。同様に、外国人の方も必要な情報が伝達されないと、うまく働くことができず、落ち込んでしまったり、本来の力を発揮しきれません。
対策として、わかりやすい日本語で会話をすることが挙げられます。ポイントは、一文をシンプルにすることと、簡単な語句を使うことです。また丁寧すぎる敬語表現は日本人以外にとって逆に難しいため避けるのが望ましいです。「~です」「~ます」の表現を使いましょう。
また、雇用契約の内容説明などの重要な話は、相手の母国語などでも説明するなど、トラブルを避けるためにも必ず理解してもらうための対策を取る必要があります。
4活躍に見合う正当な評価をする
日本人も共通ですが、仕事で活躍してもそれに対し正当な評価がされなかったら、やる気を無くしてしまいます。
例えば、同様の働きをしたにもかかわらず、日本人だけ評価され、外国人の方が評価されていないという事態は絶対に起きてはなりません。
現場で活躍して売上に貢献したら、自社の評価基準に合わせて昇給や昇進といった評価を行い、更なる活躍ができるようサポートしましょう。
海外から日本へ働きに来ている外国人の方は上昇志向が強い方が多いです。そのため、昇進や昇給を一つの目標とされている場合があります。自分の働きに対して正しく評価がなされることで、従業員と会社の信頼関係を高めることにも繋がります。
企業は外国人が長く働ける環境作りを求められる
いかがでしたでしょうか。特定技能ビザでは外国人の転職の権利を認めているものの、転職に伴うビザ変更等の関係で、転職のハードルやリスクが高い状況となっています。
また、採用した特定技能外国人が職場で長く働いてもらうための対策も多く存在します。外国人採用に取り組み始めることを考えだしたタイミングは、外国人が継続して活躍できるような職場環境の整備にも取り組み始めるタイミングとも言えます。
MUSUBEEでは、今後も外国人を雇用した後のサポートに関する取り組みや注意点などを紹介して参ります。